
中国は 2026 年 9 月 15 日、「出入国管理に関する国務院の規定」(国務院令第 841 号)を施行し、国家安全や産業・技術安全を理由に中国人の出国を制限できる仕組みを明文化するなど、出入国管理を大幅に強化しました。
新規定は全 19 条で、出国安全リスク予防制度の強化、申請事由の真実・合法要件の明確化、国家安全・技術安全を理由とした出国制限の明文化、出入国仲介サービスの規範化、外国人の入国管理の厳格化などを定めています。
技術流出阻止と国家安保が狙い
中国が出入国管理を強化した主な理由は、国家安全・産業・技術安全保障の確保と、重要技術や人材の海外流出防止です。
AI(人工知能)、希土類(レアアース)、電気自動車バッテリーなど、中国が競争力を持つ先端分野の技術や、それを担う技術者の海外流出を防ぐ狙いがあります。
規定の第 1 条には「国家主権、安全、発展の利益を守る」ことが明記されており、出入国管理を「情報・技術・所属組織・政治的リスク」を管理する広範なシステムに組み込む意図が読み取れます。
2013 年の出入国管理法施行後に生じた新たな問題(技術流出リスク、制裁リスク、電子データ管理など)に対処するため、制度を具体化・整備する位置づけでもあります。
資金の海外移動の監視強化や綱紀粛正、汚職撲滅、さらには政敵の排除(粛清)と連動し、習近平氏の権力基盤を強化する狙いもあると指摘されています。
共産党の思惑は「技術と人材の囲い込み」
中国共産党(習近平政権)の思惑は、「先端技術と人材を国内に囲い込み、米中覇権争いで優位に立つための戦略的統制」に集約されます。
中国は AI 推論モデルや半導体、レアアース精製などで米国を急速に追い上げており、これらの技術とその実用化に欠かせない人材・情報を海外に流出させたくない思惑があります。
技術者や研究者の出国を国が直接管理することで、「モノや技術の輸出規制」から「人そのものの移動規制」へと統制手法を転換しました。
先端技術とその担い手を囲い込むことで、他国が中国の技術や物資に依存せざるを得ない状況を作り出し、外交や通商で自国の意向を受け入れさせる「レバレッジ(交渉力)」を高める狙いがあると分析されています。
経済減速や地政学リスクを背景に、富裕層による海外資産移転や永住権取得の動きが加速しており、共産党は国内資本と人材の流出を防ぎたい思惑もあります。
従来は中央政府だけが持っていた出国禁止権限を地方政府にも拡大し、違反者への罰則(不当利益の 5 倍の罰金など)も強化しました。
これにより、共産党の統制を末端まで浸透させる仕組みが整いました。
中国政府は観光やビジネスなど「許可された交流」のための入国は促進する「高度な開放」政策も進めています。
共産党の思惑は、「経済成長に必要な外国人の受け入れは促進しつつ、政権の安全や技術優位を脅かす人・情報の移動は厳しく制限する」という、開放と統制を選別的に使い分ける戦略です。
日本人への影響と注意点
日本人など外国人への影響としては、新規定で出国制限の対象となるのは中国公民であり、日本人など外国人の出国が直接止められることはありません。
ビザ申請や入国審査で虚偽申告・虚偽書類提出があった場合、1~5 年の入国不許可措置が取られる可能性があります。
技術を持つ中国籍従業員の出国が制限されるケースが生じれば、日系企業の中国現地法人と日本本社間の人的往来に支障が出る可能性があります。
日本人にとっての注意点は、「中国人の出国制限が主対象だが、外国人(日本人)も入国審査やビザ申請で虚偽申告・虚偽書類提出をすると 1~5 年の入国不許可措置の対象になる」という点に集約されます。
新規定で出国制限の対象となるのは中国公民(中国人)であり、日本人など外国人の出国が直接止められることはありません。
2026 年 12 月 31 日まで、30 日以内の滞在であればビザなしで入境できる措置は継続されます。
ビザ申請や入国審査で虚偽申告や虚偽書類提出があった場合、1~5 年の入国不許可措置が取られる可能性があります。
出入国・滞在・居留の申請事由は「真実かつ合法的」でなければならず、移民管理機関やビザ発給機関は身元や申請事由を確認する際、関連文書や電子データの提出を求められることがあります。
技術を持つ中国籍従業員の出国が制限されるケースが生じれば、日系企業の中国現地法人と日本本社間の人的往来に支障が出る可能性があります。
中国側技術者や研究者の出国が認められない場合、日本での会議・研修・共同開発などが延期・中止になるリスクがあります。
中国の「反外国制裁法」に基づく対抗措置の対象者や、「信頼できない企業」リスト掲載企業に対するビザ発給・入国拒否が可能となります。
日本政府や企業が中国の制裁リストに掲載された場合、関係者のビザ発給や入国が拒否される可能性があります。
中国政府は、海外の安全情報や旅行リスク情報を継続的に発表し、中国国民に対し高リスク国・地域への渡航を慎重に検討するよう注意喚起を行います。
日本が渡航に警戒を要する「高リスク国」の一つとして名指しされているとの情報もあります。
実務対応と施行情報
実務的な対応ポイントとしては、虚偽申告・虚偽書類提出を避けるため、ビザ申請書類は正確かつ完全に作成し、必要な添付書類を漏れなく提出することが重要です。
日系企業は、中国側技術者や研究者の出国制限リスクを事前に確認し、代替プラン(オンライン会議など)を準備する必要があります。
日本政府や企業が中国の制裁リストに掲載されていないか、また中国外務省が発表する渡航注意情報を定期的に確認することも求められます。
新規定の施行日は 2026 年 9 月 15 日で、公布元は中国国務院(李強首相署名、国務院令第 841 号)です。
JETRO、時事通信、ダイヤモンド・オンライン、東京特許事務所など複数の情報源で報じられています。