
国民民主党の岡野純子衆院議員が書類送検されたのは、2025年7月の参院選での「標旗(ひょうき)」の使い方が、公職選挙法違反の疑いに当たると警察に判断されたためだと報じられています。
いわゆる買収や票のとりまとめといった典型的な選挙犯罪ではなく、「のぼり旗のルール」を誤った形で運用したことが問題の核心です。
報道によると、問題となったのは2025年7月の参議院選挙の期間中、千葉選挙区で行われた国民民主党候補・小林さやか氏の応援街頭演説です。
このとき岡野氏は、千葉選挙区の候補者に交付された標旗ではなく、本来は比例代表候補に交付されるべき標旗を、小林氏の名前を記した形で掲げて演説したとされています。
標旗というのは、選挙運動の街頭演説などで候補者名等を掲示する際に用いる公的な「のぼり旗」のようなもので、選挙管理委員会が様式や本数を決め、候補者側に交付する決まりになっています。
つまり、勝手に別の旗を作って掲げたり、交付された趣旨と違う使い方をしたりすると、公職選挙法が定める「文書図画」の規制違反にあたり得るという構造です。
今回のケースで問題視された点は、大きく言えば「誰用の標旗を、どの選挙で、どう使ったか」です。
報道によれば、岡野氏が掲げていたのは、国民民主党の比例代表候補者用に交付された標旗に、小林さやか氏の名前を記したものだったとされています。
つまり、比例代表向けのツールを、選挙区候補の街頭演説で使ったという形になり、形式上「交付されていない標旗」を用いた扱いになり得るというわけです。
公職選挙法は、候補者名や政党名などを書いた文書・図画の掲示について、「選管が交付した標旗以外は原則として掲げてはならない」といった形で、量や種類を厳格に管理しています。
その背景には、資金力のある陣営が大量の旗やポスターを掲げて視覚的な優位を独占することを防ぎ、選挙の公平性を保つ狙いがあります。
今回のように交付の趣旨と異なる標旗を使った場合、「許されていない文書図画の掲示」に当たるとみなされ、公選法違反の疑いで捜査対象になる、という構造です。
この問題は、まず自民党千葉県連が公職選挙法違反容疑で岡野氏を告発したことから、刑事手続きとして動き始めました。
告発状の受理後、千葉県警が事実関係や当時の現場の映像、標旗の実物、関係者の供述などを調べ、その上で2025年12月23日、岡野氏を公職選挙法違反の疑いで書類送検したと報じられています。
書類送検というのは、警察が「犯罪の疑いがある」として、被疑者の身柄を拘束せずに事件記録とともに検察庁へ送る手続きです。
身柄拘束を伴う逮捕とは異なり、今回のような形式犯的な公選法違反や、証拠隠滅・逃亡の恐れが低いと判断されるケースでよく用いられます。
書類送検された段階では有罪が確定したわけではなく、最終的に起訴するかどうかは検察が判断することになります。
岡野氏は、この問題が表面化した当初から、自身のSNSなどで「自分が公選法を正しく理解していれば防げた誤りだった」と述べ、謝罪の意を表明しています。
また、国民民主党千葉県連も「標旗を混同し誤って使用した」としてホームページ上で謝罪し、県連代表代行や幹事長の役職辞任といった党内の処分が行われたと報じられています。
こうした説明から読み取れるのは、少なくとも当事者側は「違法な選挙運動を意図的にしようとしたわけではなく、ルールの理解不足と運用のミスだった」と位置付けているという点です。
ただし、刑事法上は「知らなかった」「うっかりだった」からといって直ちに違法性が消えるわけではなく、「形式的な違反」も含めて処罰対象になる可能性があるため、検察がどこまで重く見るかが今後の焦点になります。
今回の書類送検は、国民民主党にとってはイメージ面で少なくない打撃となり得ます。
国政政党の現職衆院議員が公選法違反容疑で捜査対象になったという事実自体が、他党やメディアからの批判材料になり、クリーンさやコンプライアンス意識を巡る議論を呼ぶ可能性があります。
特に、同党は「まっとうな政治」や政策重視を掲げてきただけに、選挙ルールの理解不足による不祥事は支持層にとっても気になるポイントになるでしょう。
同時に、公職選挙法そのもののあり方についても議論が再燃する可能性があります。
標旗やポスターの細かな規制は、時代遅れではないかという批判が以前からあり、インターネット選挙運動が広がる中で、旧来型の「文書図画規制」をどこまで厳格に維持すべきかは、政界・法曹界で繰り返し論じられてきました。
一方で、ルールを緩め過ぎれば資金力のある陣営が広告や物量で選挙を席巻する危険もあり、今回のような事案は「公平性確保」と「表現の自由・合理化」のバランスを考える上で象徴的なケースと言えます。
今後は、検察が起訴するのか、それとも略式起訴や不起訴とするのかという判断がひとつの区切りになります。
仮に起訴となり有罪が確定した場合、情状や刑の内容によっては、議員としての進退問題が再びクローズアップされる可能性があります。
一方、不起訴やごく軽微な扱いになったとしても、政治的責任の取り方や、党内での再発防止策の具体化が問われ続けることになるでしょう。
以上を踏まえると、この件は単なる「のぼり旗のミス」というだけでなく、日本の選挙制度の細かさと厳格さ、政党や議員のコンプライアンス体制、そして公職選挙法を今後どう見直していくべきかを考えるきっかけになる事案だと位置付けられます。