
透析を受けている方、あるいはそのご家族から「部材が足りなくなるって聞いたけど大丈夫?」と聞かれたら、何と答えますか。
今、SNSや業界内のコミュニケーションを通じて、「イラン情勢の影響で透析部材が不足する」「すでに不足を案内している業者がある」という情報が広まっています。
結論を先に言います。これらはデマです。現時点で供給不足は確認されていません。
では、なぜこのデマは生まれ、どのように広まったのか。そして私たちはどう行動すべきか。
そもそも、なぜ「イラン問題=透析部材不足」になるのか
ホルムズ海峡は世界の原油輸送の約2割が通過する重要ルートです。イランとの緊張が高まるたびに「封鎖リスク」が話題になり、エネルギー価格への影響が議論されます。
透析部材の一部は石油由来の合成樹脂を原料としているため、「原油が止まれば部材も止まる」という連想が生まれやすい構造があります。
ただし、これは「コストが上がるかもしれない」という話であって、「物が届かなくなる」という話ではありません。
実際の透析部材はどこで作られているか
ダイアライザー、血液回路、透析液、ヘパリン。
これらの主要品目の多くは、日系メーカー(日機装・東レ・旭化成メディカル・ニプロなど)が国内外に持つ生産拠点で製造されています。
サプライチェーンの基盤は中東の輸送ルートとは切り離されており、現時点でイラン情勢を原因とする物理的な供給途絶は起きていません。
日本透析医学会や主要メーカー各社からも、供給不足に関する公式発表は出ていません。
「業者が不足の案内を出している」というデマについてより注意が必要なのは、この二次デマです。
「某業者がすでに顧客に不足の案内を送った」という情報が出回っていますが、これには以下の可能性があります。
通常業務の在庫確認連絡が「不足案内」として誤って伝わったケース、競合他社や悪意を持った第三者による意図的な流布、そして読み手が不安から内容を誇張して拡散したケースです。
こうした情報が広まると、各施設が一斉に在庫を積み増そうとし、物流に一時的な滞りが生じ、それがまた「やはり不足している」という認識を強化します。
2020年のマスク・消毒液と全く同じ構造です。
デマを見分ける3つのポイント
受け取った情報を確認するとき、まず「発信源は誰か」を確認してください。
「某業者が〜」「関係者によれば〜」という表現は、デマの典型的なパターンです。
次に、その情報に対応する一次情報源(メーカーや学会の公式発表)が存在するかを確認してください。
最後に、「今すぐ備蓄を」「すでに始まっている」といった緊急性を煽る言葉には特に注意が必要です。
これらは受け手を冷静な判断から遠ざけるために働きます。
不安を感じたときの正しい行動透析患者の方は定期的に医療機関と接触しています。
本当に供給上の問題が起きていれば、医療機関側が真っ先に把握しているはずです。
SNSや口伝えの情報を過度に心配する前に、担当医師・クリニックのスタッフ・MSWに確認することが先決です。
また、信頼できる情報源は日本透析医学会の公式サイト、厚生労働省の医薬品・医療機器供給情報、各メーカーの公式アナウンスに限られます。
これら以外の情報を、裏付けなしに拡散することは控えてください。
まとめ
イラン情勢が世界経済に影響を与えるという議論は正当なものです。
しかし「今すぐ透析部材が不足する」という話には、いくつもの未確認の仮定を経由しなければなりません。
現時点において、その連鎖はどこにも確認されていません。
医療という命に直結する領域だからこそ、デマは速く広まり、デマが招いたパニックが実害を生みます。
不安を感じたときほど、公式情報源に立ち戻ることを心がけてください。