
イランのアラグチ外相は共同通信の電話インタビューで、ホルムズ海峡について「われわれは海峡を封鎖していない」「敵国の船舶は通さないが、敵国以外で通過を希望する国々の船舶には通航の安全を提供する用意がある」と説明しました。
そのうえで、日本関連船舶については「通過を認める用意がある」と述べ、日本を名指しで「通してもよい」とメッセージを出したと報じられています。
これに対して日本政府側(茂木外相)は、「日本船の通行を個別に認める協議をしている事実はない」といった趣旨で報道を否定し、ホルムズ海峡の「全面的な開放」を求める立場だと説明しています。
イランは「敵国以外は安全を保障する用意がある、日本もその対象にしうる」とアピールし、日本側は「日本だけ特別扱いされるような個別取引には乗らない」という距離感を示している構図です。
参政党の神谷宗幣代表は 17日の参院予算委員会で「インドがホルムズ海峡船舶通過のためにイランと交渉中」とし、日本もこれまでイランとの外交関係を生かしてタンカー通過のために交渉に出ることを主張しました。
日頃から「アメリカ一辺倒ではなく、イランやロシアなどとも独自外交を行うべきだ」といった文脈の発信を繰り返しており、今回も「日本への通過容認というイランの姿勢を評価し、受け入れるべきだ」といった論調に立っていると受け止められています。
背景には、ホルムズ海峡封鎖が長期化した場合、日本が深刻なエネルギー危機に陥りうるという危機感があり、「アメリカに追随してイランを敵に回すより、イランと直接話をつけて日本のタンカーだけでも守るべきだ」という、いわば国益優先・実利追求型の発想が見て取れます。
共産党の志位和夫委員長は、Xで「ホルムズ海峡問題を解決する唯一の方法は、この戦争を始めたアメリカとイスラエルにイラン攻撃を即時中止させることだ。日本政府がいまやるべきこともそこにこそある」と主張しており、イランを直接批判するよりも、アメリカ・イスラエル側に攻撃停止を迫るべきだという立場です。
つまり、神谷氏は対米従属批判+国益(資源確保)優先の保守・ナショナリスト的な文脈から、志位氏は反米・反戦の左派的文脈から、それぞれ「イランの提案を受け入れろ」と言っているが、どちらも「日本はアメリカの側に付きすぎるな」「イランとの対立を深めるな」という点では共通している、という構図です。
イランは「敵国の船舶は通さないが、敵国以外の船舶は協議のうえ通す」と述べており、日本を名指しして「通してやってもよい」と発言しています。
これを日本が前向きに受け入れることは「イランの選別航行ルールを追認する」意味を持ちます。
しかしホルムズ海峡は国際海峡であり、国際法上はすべての国の船舶に無害通航や通過通航の自由が保障されるべき場所です。
「敵か味方か」で通行権を差別するロジックに日本だけ先に乗ると、「国際法に基づく自由航行」原則を自ら弱めることになります。
今後、例えば中国が台湾海峡や南シナ海で同様の「敵国の船は通さない」方式をとったとき、日本がそれに抗議しにくくなるリスクがあり、長期的な安全保障環境という観点では大きなマイナスです。
また、日本だけが「特別に通してもらう」構図は、アメリカや欧州、湾岸諸国など他のパートナー国から見れば、「自分だけ助かればいいのか」「制裁網の穴になっているのではないか」という疑念を招きます。
特に、アメリカ・イスラエルとイランの軍事衝突が続いている状況で、日本が「自国のタンカーの安全確保」を名目にイラン側の条件を受け入れることは、「事実上イラン側に肩入れしている」と見なされかねず、日米同盟の信頼にも傷がつきます。
このように、短期的なエネルギー供給の安定と引き換えに、中長期の外交的信用と安全保障環境を損なうおそれがある点が、最大の問題です。
日本政府はこれまで、ロシアのウクライナ侵攻に対してはG7と足並みを揃えて厳しい制裁に加わり、南シナ海や台湾海峡では「力による一方的な現状変更に反対」「自由で開かれたインド太平洋」を唱えてきました。
その同じ日本が、イランが事実上の封鎖状態にしたホルムズ海峡で、「日本船だけ特別扱いしてくれるならそれで良し」と振る舞えば、「原則」ではなく「損得」で態度を変えるダブルスタンダードだと受け取られます。
そうなると、日本が将来どこかの紛争で「国際法を守れ」「無差別攻撃はやめろ」と訴えても、「日本だって自分のときは取引に応じたではないか」と反論され、道義的発言力が落ちる危険があります。
さらに、イラン側にとっても「日本だけは通す」と約束した瞬間に、日本の立ち位置は「完全な中立」から「イランと一定の取引関係にある国」へと変わります。
これは、アラブ・イスラム世界でのイメージだけでなく、イスラエル・アメリカ側からの見え方も微妙に変え、日本の「仲介役」「橋渡し役」としての価値を損ねる可能性があります。
本来、日本の強みは「どちらにも完全には与しないが、国際法や人道の原則に立って双方にものが言える」という立ち位置にあるので、その中立性を自ら崩すことは長期的に損になりやすいと考えられます。
神谷氏のように、エネルギー安全保障を最優先に「日本だけでも通してもらえればよい」と発想する場合、短期的な国益は確かに見えやすい一方で、「国際秩序を維持するコストを他国に押しつけ、日本はただ便益だけを得るフリーライドではないか」という批判を招きます。
参政党は対米自立や主権回復を強く訴えますが、実際に国際秩序を維持するリスクをどれだけ日本が引き受ける覚悟があるのか、という点が十分に詰められていないと、現実的な外交・安全保障戦略としては説得力を欠きます。
一方、志位氏のように「すべての原因はアメリカとイスラエルにある」と語り、イランの行動にほとんど矛先を向けない立場は、支持層には分かりやすいものの、国際政治の複雑さを単純化しすぎているきらいがあります。
イランによるミサイル・ドローン攻撃や代理勢力への支援、ホルムズ海峡を巡る示威的な軍事行動などもまた、緊張を高めている一因である以上、「一方だけが悪い」とする構図では、現実的な解決策に結びつきにくいのです。
さらに、「アメリカとイスラエルに攻撃停止を求めればホルムズ問題は解決する」という単線的な説明は、実際に日本がどのような外交手段と影響力を持っているのか、制裁・同盟・中東諸国との関係などをどう調整するのか、といった具体論に乏しいままです。
このように、参政党も共産党も、「アメリカ一辺倒ではない日本外交を」という問題意識自体は理解できるものの、ホルムズ海峡という極めてセンシティブな紛争の現場で、日本がどのように国際法・同盟関係・エネルギー安全保障・中東諸国との関係を総合的にバランスさせるか、という点まで掘り下げた議論にはなっていないことが、この問題の本質的な弱点だと言えます。