
高市早苗首相と韓国の李在明大統領による就任後初の日韓首脳会談は、2025年10月30日に、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に先立ち、韓国の慶州市内で行われました。
会談は穏やかな雰囲気で進められ、高市首相は李大統領からの「温かい歓迎だった」と述べました。
当初20分の予定でしたが、会談時間は45分間に延長され、両首脳は「とても楽しい意見交換をした」と振り返っています。
両首脳は、現在の戦略環境の下で、日韓の関係、そして日米韓の関係の連携を確実にしていくという重要性について一致しました。
これは非常に有意義であったと高市首相は評価しています。
日本を取り巻く安全保障環境は、中国の東・南シナ海での覇権主義的な動きや北朝鮮の核・ミサイル開発、さらには中朝とロシアの接近や露朝の軍事協力により、厳しさを増しており、このような背景が連携強化の必要性を高めています。
両首脳はまた、隣国ゆえに立場の異なる諸懸案はあるものの、これらをリーダーシップで管理し、日韓国交正常化以来築かれてきた基盤に基づいて、日韓関係を未来志向で安定的に発展させていくことで一致しました。
さらに、今後、両国首脳が相互訪問する「シャトル外交」を積極的に実施することを確認し、次は日本側が李大統領を迎え、日韓両政府間で緊密に意思疎通を進めていくことになりました。
李大統領は会談で、高市首相を「日本史上初の女性首相で格別の意味がある」と持ち上げました。
李大統領は、高市首相が就任会見で日韓関係の重要性を強調した発言に対し、「全面的に共感する」と表明し、「私が普段言っていることと一字一句変わらない」と強調し、周囲の笑いを誘いました。
李大統領はさらに、会談の場で、慶州は高市首相の故郷である奈良のように、古代東アジアの人的・文化的交流の中心地であったと語りかけました。
友好関係を演出するため、両首脳間で工夫を凝らしたプレゼントが贈り合われました。
李大統領は、高市首相が就任会見で「韓国のりは大好き。コスメも使っています」と述べたことを好意的に受け止め、その発言を受けて韓国コスメとのりを高市首相に贈呈しました。
一方、高市首相は、囲碁好きとして知られる李大統領に対し、李氏の故郷である慶尚北道安東市と「パートナーシティ」関係にある鎌倉市で作られた碁石などを贈呈しました。
今回の会談が友好的な雰囲気で進んだ背景には、両首脳が過去の敵対的発言を封印し、「現実路線」を選んだことがあります。
高市首相は過去に強硬な発言から韓国メディアで「女性版安倍(晋三元首相)」「強硬右派」と表現されてきましたが、首相就任後は「安全運転」にシフトし、靖国神社秋季例大祭への参拝を見送りました。
また、首相就任後の会見では、「韓国のりは大好きで韓国コスメも使っている。韓国ドラマも見ている」と、韓国文化への親近感をアピールする姿勢を見せています。
李在明政権も、李大統領が野党時代には反日的な発言が多かったにもかかわらず、大統領就任と同時に日本との友好に舵を切る「実用外交」を掲げています。
李政権が日韓接近を急ぐ背景には、国際情勢の激変と韓国経済の苦境があります。
文在寅政権時に大幅な黒字だった対中貿易が赤字に転落し、国民の嫌中感情が悪化していること、さらに同盟国である米国でトランプ氏が返り咲く不確実性がある中、日韓の民間交流の活発化という「時流に乗る」ことを選択し、高市首相との親交に舵を切る必要があったためです。
実際、高市政権発足直後から、韓国大統領室の高官が異例の訪日を行い、李大統領の韓日協力の意志を伝えて高市内閣への協力を要請していました。
友好的な雰囲気の裏側には、いくつかの懸念事項も存在します。
現政権はともに防衛・軍事費の増額を打ち出しており、高市首相は防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増額する目標を本年度中に前倒しすると表明しています。
韓国側も自主防衛の強化などを図る構えを見せており、韓国では歴史的な経緯から日本への警戒感が消えず、「東アジア諸国で軍拡がドミノ的に広がっていく可能性がある」との懸念も報じられています。
韓国は、トランプ大統領と李在明大統領との会談で原子力潜水艦開発の支援を要請しています。
主敵である北朝鮮が地続きである上、背後の中国やロシアも海を介して近接しており、さらに韓国自体の領海が狭いことから、原潜を使うほどの長時間航行の必要性に疑問が残ります。
将来日本を攻撃するための兵器として考えているとの主張もあり、韓国の動きは予断を持たずに注視する必要があります。