今回のトランプ大統領による輸入車への関税措置は、単なる貿易障壁の導入に留まらず、世界経済の構造や国際関係に広範な影響を与える出来事です。
概要
まず、トランプ大統領は輸入自動車に対し25%の追加関税を課すことを正式に発表し、2025年4月3日に発効します。
(一部報道では、エンジンなどの主要部品にも5月3日までに25%の追加関税が課されるとされています。)
この措置は日本を含む全ての国・地域からの輸入車が対象であり、米通商拡大法232条を根拠に、外国製品への依存が安全保障上の「脅威」になるとの理由が挙げられています。
相互関税
「相互関税」を巡る不透明感も市場の警戒感を高めています。
トランプ大統領は、この関税によって年間1000億ドル(約15兆円)以上の税収を見込めるとし、「アメリカで生産された車であれば関税は一切、課されない。企業は関税を支払わなくても済むようにアメリカに戻ってくる」と述べ、国内産業の保護と雇用創出を狙っています。
各国の反応
これに対し、各国からは強い反発が出ています。
カナダのカーニー首相は、トランプ氏の行動を「直接的な攻撃」と非難し、近く報復措置を取る意向を表明しました。
3月27日にはハイレベル閣僚会議を開いて対応を決定するとし、「われわれは労働者を守り、企業を守り、国を守る」と強調しています。
カナダはすでに総額1550億カナダドルの報復関税パッケージを発表しており、トランプ氏の行動次第で段階的に課すとしています。
オンタリオ州のフォード州首相も、「カナダ国民に痛みを与えることなく、米国民にできるだけ多くの痛みを与えるようにするつもりだ」と述べています。
EUのフォンデアライエン委員長は、この決定を「とても遺憾に思う」とし、「米国とEUの企業にとって悪影響で、消費者はさらに影響を受ける。引き続き交渉による解決策を模索する」との声明を発表しました。
ドイツ自動車工業会のヒルデガルト・ミュラー会長は、「ルールに基づく自由貿易にとって致命的だ。世界のサプライチェーン(供給網)に大きな負担をかけ、特に北米を含む消費者に悪影響を及ぼすだろう」と追加関税を強く批判しています。
日本の反応
日本政府も、林官房長官が「極めて遺憾」であるとし、「改めて今回の措置対象から日本を除外するよう申し入れた」と発表しています。
石破首相も「適切な対応を考える必要、あらゆる選択肢が検討対象」であり、「対抗措置も選択肢」であると示唆し、「自動車関税を日本に適用しないよう強く要請」しています。
武藤経済産業相も ранее 米国に適用除外を求めていましたが、不調に終わっています。
経済への影響
経済への影響は広範囲に及びます。
日本への影響は深刻です。2024年の日本から米国への自動車輸出額は6兆261億円に上り、対米輸出総額の28.3%を占めており、最も多い品目です。
現在の関税は原則2.5%ですが、25%に引き上げられることで、米市場での価格競争力が低下し、販売数が大きく減少する可能性があります。
これは自動車メーカーだけでなく、部品や素材など幅広い産業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
複数の自動車大手10社の追加コストは年間約510億ドル(約7.6兆円)増え、マツダやGMは営業赤字となる可能性も指摘されています。
米国株への影響
米国経済への影響も懸念されます。
輸入車価格の上昇は消費者の負担増となり、購買力を低下させる可能性があります。
また、各国からの報復関税は、米国の他の産業にも悪影響を及ぼす可能性があります。
全米自動車労働組合(UAW)はトランプ関税を称賛する声明を出していますが、消費者の負担増や貿易の混乱は避けられないと見られています。
株式市場はトランプ大統領の発表に敏感に反応しています。
27日の東京株式市場では、輸入自動車への追加関税を受け、自動車株が大幅に下落し、日経平均株価も午前の終値で前日比353.26円安の3万7674.03円となりました。
特に、マツダ<7261>、SUBARU<7270>、三菱自<7211>、日野自<7205>、トヨタ自<7203>、ホンダ<7267>などの自動車株が軒並み安となっています。
米国市場でも、同様の懸念から株価が下落する可能性があります。
また、中国の規制強化を警戒した米半導体株の崩れも東京市場の半導体株安に拍車をかけています。
値下がり寄与トップはアドバンテスト<6857>、2位はソフトバンクG<9984>となっています。
その他
トランプ大統領は、輸入車関税を「米国における解放の日の始まり」と位置づけ、外国製品への依存からの脱却を目指す姿勢を明確にしています。
また、韓国のヒョンデ自動車グループが米国で巨額投資を行うことを明らかにしたことを引き合いに、「関税が非常に効果的であることを明確に示している」と述べ、自らの政策の正当性を主張しています。
今回の輸入車関税措置は、世界的な貿易秩序の根幹を揺るがす可能性を秘めており、今後の各国の対応、国際交渉の行方、そして世界経済への影響を注視していく必要があります。