ロシアによるウクライナ侵略が続いていますが、この軍事侵攻の一環として、プーチン大統領()が核兵器使用ないしそれを匂わせる言及を幾度となく繰り返しています。
ロシアの核兵器利用について、西側メディアの多くは否定的な報道が多いように思います。私もほぼあり得ないと見ていますが、その理由をメモ程度に書いておきます。外れたら笑ってください。
- チェチェン共和国・カディロフ首長がプーチン大統領に「思い切った措置」を呼びかける
- 「祖国・同胞を開放する」はずなのに、核攻撃をするのか?
- 攻撃に成功した場合、報復攻撃に耐えられるのか?
- そもそも攻撃に失敗する可能性はないのか?
- チェチェンのカディロフ首長は、まあ進言するでしょうね
チェチェン共和国・カディロフ首長がプーチン大統領に「思い切った措置」を呼びかける
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンから撤退したことに対して、南部チェチェン共和国のカディロフ首長は1日、SNS「テレグラム」上でいらだちをあらわにし、ロシア側は低出力核兵器も含めた「思い切った措置」を取るべきだと主張した。
このCNNの記事のみならず、日本の読売新聞・毎日新聞などの10/3付各朝刊で、チェチェン共和国のカディロフ首長がロシアのプーチン大統領に対して「思い切った措置」の使用を呼びかけているとの報道がありました。
「思い切った措置」とは報道によれば「低出力な核兵器」とのことです。「低出力」という趣旨の発言を実際にしているのかは不明なため、一旦は規模にとらわれず、「核兵器の使用を進言した」と考えて良いと思います。
この記事の中ではプーチンニキの「これまで実践で核兵器を使用したのは米国だけだ」という発言も掲載されていましたが、これはよくある論点そらしの詭弁なので、温かい目で見守ってあげましょう。一般市民が言うならともかく、一国のトップが言ってしまい、圧倒的な小物感を感じます。
「祖国・同胞を開放する」はずなのに、核攻撃をするのか?
ロシアにとって問題となるのが、ロシア自身はウクライナ侵略について「祖国開放・同胞開放」を唱えている点です。
ウクライナを単純に敵国と置いた上で軍事侵攻を仕掛けているのであれば、最悪絨毯爆撃でも核攻撃でも行って壊滅させてしまえば良いだけの話です。ところがロシアはウクライナを自国領と捉えているためこの侵略を「特別軍事作戦」と表現し、ここまで「戦争」と表現することは控えています。
この状態で壊滅的な攻撃を加えるとは自国領内を壊滅させるという意味合いになってしまい、ウクライナ侵略のロシア国内だけでしか通用しない大義名分も崩壊してしまいます。
より問題となるのは、ウクライナ領内のロシア人や親ロシア派の開放をも大義名分としている点です。ロシア軍はこれまでも虐殺を繰り返しているとされますが、白兵戦での残虐行為はあくまでも「ウクライナ人に対するものであり、ロシア人は開放している」と言い張ることはできるでしょう。無差別攻撃でこの強弁を通すのは、さすがに厳しいと思います。
従って、核兵器というよりも無差別攻撃自体、ロシア国内で世論の支持を失うリスクを伴います。
攻撃に成功した場合、報復攻撃に耐えられるのか?
ロシアは核兵器保有国であり、ウクライナはソヴィエト時代に配備されていた核兵器を撤去しています。それに加え、侵攻しているのはロシア側であり、ウクライナは防衛側です。このため「核兵器による脅し」はロシア側だけが可能であり、原発を人質にとった脅しもロシア側のみが実行可能な状態になっています。
但しロシアが核兵器で優位に立てるのは、ウクライナと単独で対峙した場合のみです。米国を盟主とするNATO諸国は現時点で直接的な戦闘には加わっていませんが、永続的に参戦しないという保証はありません。ロシア側の軍事作戦は、常にNATO諸国が参戦してくる可能性も考慮しなければならないでしょう。
※蛇足ですが、ロシアの立場で言えば米国のみならず、日本やカナダが背後のシベリアへ攻撃してくる可能性も当然考慮しているはずです。
加盟国のうち米国・英国・フランスは核兵器を保有していますので、仮にロシアが核兵器を使用する場合、その報復としてこれらの国々が核兵器を使用して攻撃してくる可能性があります。
一部報道では「ロシアが核攻撃を行った場合、西側諸国は核戦争を回避するため直接ロシアを攻撃するのではなく、同盟国であるベラルーシを攻撃する」と報じられています。あくまでも報道であり、ロシアの立場としては、直接攻撃を食らう可能性も当然考慮していると思います。
本当にベラルーシが攻撃された場合も、ロシアが同盟国を見捨てる形となってしまいます。これは、ロシアの旧ソヴィエト圏への影響力を崩壊させるリスクを伴います。
従って、現状では「核」を利用するにしても「ウクライナの原発」を人質に取る形しか取れていません。精密攻撃が可能な兵器があるうちは、原発に対して攻撃を仕掛けつつ致命的な破壊は回避し、ウクライナやNATO諸国を揺さぶるといった手を取ります。
但し半導体輸出の停止措置が取られているため、ロシアは精密攻撃可能な武器が生産できなくなっています。原発を人質に取ったチキンレースを仕掛けることができなくなるため、今後はプーチン大統領が自国を(或いは、自国領と考えているウクライナ領を)核攻撃される覚悟を取れるかどうかで戦況が変わってきます。
そもそも攻撃に失敗する可能性はないのか?
ロシアが核兵器を利用できない最大の理由は、ここにあると私は考えています。
ウクライナ侵略では、質量とも圧倒しているロシアが日を置かずにウクライナ全土を制圧して終わると、おそらく殆どの人が考えていたと思います。少なくとも私はそう思っていました。
ところが航空優勢の奪取に失敗するとキーウ侵攻から撤退、ロシアが誇る戦車T-72は西側の対戦車誘導ミサイルATGMの攻撃により「びっくり箱」と揶揄される軟弱性を見せてしまい、黒海艦隊の旗艦にして首都の名前を冠するモスクワも、おそらく対艦ミサイルネプチューンに攻撃され撃沈。質量ともに圧倒していたはずのロシア軍兵器は、西側兵器の前に立て続けに醜態を晒す事態となりました。
このような事態が続いた以上、核兵器を使用する場合も同じ問題が発生するリスクを考慮しなければならないはずです。攻撃に成功すれば一旦は間違いなく相手にダメージを与えることができますが、迎撃その他の手法で一度封じられてしまうと、核兵器による揺さぶりという手が使えなくなります。実際に西側がロシアの核兵器を100%封じられるとは思いませんが、ロシアは封じ込まれる可能性とリスクを考えざるを得ません。
従って、ロシアが核兵器を使うケースは万策尽きた段階である可能性が高く、攻撃に成功する可能性は100%ではなく、成否にかかららず西側諸国から報復攻撃を受けることは確実なため、その時点でロシアの敗戦が確定します。
チェチェンのカディロフ首長は、まあ進言するでしょうね
さて今回は、チェチェン共和国のカディロフ首長が核兵器の使用を匂わせる進言を行っています。カディロフ首長は親ロシア派かつ強硬派でもありますので、この言動には特に不自然さは無いようにも見えます。
ロシアが勝てば引き続きプーチン大統領に忠誠を尽くしていけばいいのですが、その一方で独立志向もある人物ですので、ロシアが弱体化したとなればあっさりと独立宣言を行う可能性もありそうです。或いは、ロシアに致命傷を負わせるための進言かな?という可能性をちょっとだけ感じました。